ipsetを使ってスマートにiptablesを設定する
ギークな知人から「vpsでiptables設定していたらルール設定数の上限に引っかかって思い通りの設定ができない!」との話を聞き、それは一体どんな大きさのiptablesなんだと内心ツッコミを入れつつ、対応方法を調べることにした。知人曰くipsetが使えそうとの事なので、調査した結果をブログにまとめておく。
ipsetとは?
ipsetとはLinuxカーネルバージョン2.4以降で利用できるIP管理用のユーティリティのことだ。 ipsetを利用することで、IPアドレスの集合を簡単に管理することができる。
ipset自体はネットワーク管理機能を持たないが、iptablesと組み合わせることで、
- iptablesのフィルタリングルールを一括で更新できる
- IPを集合として扱う事で、煩雑なiptables管理を単純化できる
といったメリットがある。
ipsetを使ってみよう
それでは、実際にipsetを使ってiptablesを設定してみよう。今回は接続を拒否したいネットワークアドレスの集合をipsetを利用して”BLACKLIST”という名称で管理し、iptablesに追加してみる。ipsetは私の環境(CentOS6.5)では標準で入っていないため、インストールから始める。
1.iptablesのインストール
$ sudo yum install ipset # 一部省略 Setting up Install Process Resolving Dependencies --> Running transaction check ---> Package ipset.x86_64 0:6.11-1.el6 will be installed --> Processing Dependency: libmnl.so.0(LIBMNL_1.0)(64bit) for package: ipset-6.11-1.el6.x86_64 --> Processing Dependency: libmnl.so.0()(64bit) for package: ipset-6.11-1.el6.x86_64 --> Running transaction check ---> Package libmnl.x86_64 0:1.0.2-3.el6 will be installed --> Finished Dependency Resolution Dependencies Resolved ============================================================================================================================================== Package Arch Version Repository Size ============================================================================================================================================== Installing: ipset x86_64 6.11-1.el6 base 61 k Installing for dependencies: libmnl x86_64 1.0.2-3.el6 base 21 k Transaction Summary ============================================================================================================================================== Install 2 Package(s) Total download size: 82 k Installed size: 205 k Is this ok [y/N]: y Downloading Packages: (1/2): ipset-6.11-1.el6.x86_64.rpm | 61 kB 00:00 (2/2): libmnl-1.0.2-3.el6.x86_64.rpm | 21 kB 00:00 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- Total 115 kB/s | 82 kB 00:00 Running rpm_check_debug Running Transaction Test Transaction Test Succeeded Running Transaction Warning: RPMDB altered outside of yum. Installing : libmnl-1.0.2-3.el6.x86_64 1/2 Installing : ipset-6.11-1.el6.x86_64 2/2 Verifying : libmnl-1.0.2-3.el6.x86_64 1/2 Verifying : ipset-6.11-1.el6.x86_64 2/2 Installed: ipset.x86_64 0:6.11-1.el6 Dependency Installed: libmnl.x86_64 0:1.0.2-3.el6 Complete!
2.セットの作成
ipsetでは、IPアドレスの集合をセットという単位で管理する。先ず、セットを作成し、セットに対してIPアドレス(エントリ)を追加していくイメージだ。
先ずは接続を拒否したいネットワークのアドレスを保持するセット”BLACKLIST”を作成する。
$ #接続拒否IPの集合"BLACKLIST"を作成 $ sudo ipset create BLACKLIST hash:net
コマンドはipset create SET名 TYPENAME [CREATE-OPTIONS]
という書式を持つ。TYPENAMEとCREATE-OPTIONについて解説しておこう。
TYPENAME
作成するセットの種類を指定する。指定可能なTYPENAMEはいくつかパターンがあり、このページに詳しく記載されている。簡単に言えば「アドレスの格納方法:格納できる情報(カンマ区切り)」という形式だ。TYPENAMEの一覧と簡単な説明は以下の通りだ。
TYPE | 格納情報 | 詳細 |
---|---|---|
bitmap:ip | IP | IPアドレスを保持。 CIDR形式でエントリを追加した場合、指定したネットワークに属する全てのIP(NW、ブロードキャストアドレス含)が個々に展開されて格納される。ただし、展開されるだけで、展開後IPはネットマスクを保持していない。 また、後述する「netmask」CREATE-OPTIONを指定するとネットワークアドレスのみ保持するセットとして定義できる。 |
bitmap:ip,mac | IPとMACのペア | IPとMACの組合せを保持。IPはネットマスクを保持できない。 |
bitmap:port | PORT | PORT番号を保持。 1-1023のようにPORTを範囲指定してエントリ追加できるものの、個々のPORT番号に展開されて格納される。 |
hash:ip | IP | hashを利用してIPアドレスを保持。 セットに格納できるIPの範囲を制限(「range」CREATEオプション。詳細は後述)できない点を除きbitmap:ipと同じ。 |
hash:net | IP (NWアドレス) | ネットワークアドレスを保持。 CIDR表記でエントリ追加した場合、指定されたIPのネットワークアドレスがエントリとして登録される。(ホストアドレス部分は無視される。) ⇒ 192.0.2.1/24を追加しても、エントリ追加されるのは192.0.2.0/24(ホストアドレス無視) ※ CIDR形式を利用しなければ、単一IPをエントリ追加可能だが、ネットマスクを持てない |
hash:ip,port | IP、PORT、L4 Protocolの組合せ | IP(ネットマスク保持不可)、PORT、L4プロトコルの組み合わせをハッシュで保持。 エントリ追加時にL4プロトコルは省略可能で、デフォルトはTCP。 また、CIDR表記によるエントリ追加は可能だが、該当ネットワークに属する個々のIPに展開されてエントリ追加される。(展開されるだけでネットマスクの情報はセットに保持されない) |
hash:net,port | IP(NWアドレス)、PORT、L4 Protocolの組合せ | NWアドレスを含むIP、PORT、L4プロトコルの組合せで保持。 IPのエントリ追加に関する挙動は「hash:net」と同じ。 L4プロトコルの考え方は「hash:ip,port」と同じ。 |
hash:ip,port,ip | IP×2、PORT | 1エントリで2つのIPアドレスとPORT番号の組合せを保持。 1対1のIPの紐付け管理ができるからNAT設定向きか? |
hash:ip,port,net | IP、PORT、L4 Protocolの組合せ | IPアドレスとPORTとネットワークアドレスを保持。 L4プロトコルの考え方は「hash:ip,port」と同じ。 エントリの追加は紛らわしい。CIDR表記によってIPを指定できるが、ネットワークアドレスは別途指定する。 CIDR表記が表すNWの全てのIPが展開されてエントリに追加され、その後、個々のIPに対して指定したネットワークアドレスが割り当てられる。(ネットマスクではなく、ネットワークアドレスで管理される) |
hash:net,iface | IP、NWインタフェースのペア | ネットワークアドレスを含むIPとネットワークインタフェースをペアで保持できる。NWインタフェースの指定はインタフェース名(eth1など)を使う。 |
list:set | セット | 上記のセットを複数まとめて保持。 複数のセットをまとめて管理することができる。 |
今回作成する”BLACK LIST”は接続を拒否したいネットワークのアドレスを保持するので、hash:net
を選択する。
CREATE-OPTIONS
セットに対して様々な設定を行う事ができる。セットのTYPENAMEによって利用できるオプションは異なる。主なオプションは以下の通り。
OPTION | 使途 | 対応TYPE |
---|---|---|
range | セットに保持するIPやPORTの範囲指定が可能。 指定した範囲から外れたエントリを追加しようとするとエラー。 bitmap系のTYPEでのみ指定可能であり、かつ指定必須。 | bitmap:ip bitmap:ip,mac bitmap:port |
timeout | セット内のエントリの有効期間を秒指定。 指定した秒数の経過後、エントリはセット内から削除される。 デフォルトは"0"(無期限)。 | 全てのTYPE |
family | セット内で利用するIPのアドレスファミリ。 デフォルトは"inet"(IPv4)。IPv6を扱う場合は"inet6"を指定。 | IPを取り扱える全TYPE |
hashsize | ハッシュのサイズ。 デフォルトは"1024"。 | hash系の全TYPE |
maxelem | ハッシュに登録できるエントリの最大数。 デフォルトは"65536" | hash系の全TYPE |
netmask | エントリに適用するネットマスク。 当オプションを指定したセットはネットワークアドレスしか保持できない。(ホストアドレス部分は常に無視される) 1 - 31で指定する。 | bitmap:ip hash:ip |
3.エントリの追加
作成したセット「BLACKLIST」に対してエントリを追加する。
今回は「192.0.2.128/26」と「192.0.2.192/26」の2つのネットワークを追加してみよう。
$ sudo ipset add BLACKLIST 192.0.2.128/26 $ sudo ipset add BLACKLIST 192.0.2.192/26 $ sudo ipset list BLACKLIST Name: BLACKLIST Type: hash:net Header: family inet hashsize 1024 maxelem 65536 Size in memory: 16816 References: 0 Members: 192.0.2.128/26 192.0.2.192/26
セットに対するエントリの追加はipset add セット名 追加エントリ
コマンドで実行可能だ。また、セットが保持するエントリのリストはipset list セット名
で表示できる。
なお、エントリの削除はipset del セット名 削除エントリ
コマンドで実行できる。
4.作成したセットをiptablesに追加
では、作成したセット”BLACKLIST”をiptablesに混ぜ込んでみる。
$ #BLACKLIST内に保持するNWアドレスを持つパケットは全てアクセスさせない $ sudo iptables -I INPUT -m set --match-set BLACKLIST src -j DROP $ sudo iptables -L # 一部省略 Chain INPUT (policy ACCEPT) target prot opt source destination DROP all -- anywhere anywhere match-set BLACKLIST src
iptablesは-m(または-match)オプションを利用することで拡張モジュールを使うことができる。今回、iptablesコマンドでipsetを使っているのは-mオプションに続く-m set --match-set BLACKLIST src
の部分だ。
ipsetを利用する場合の拡張モジュール名は「set」であるため、今回の-mオプションは-m set
となる。また、拡張モジュール側のコマンドとして--match-set BLACKLIST src
を利用しているが、これは、”BLACKLIST”にマッチするIPアドレスsourceアドレスとして利用するというコマンドだ。 なお、拡張モジュール側で利用できるコマンドと書式はiptables -m set -h
コマンドから確認できる。
$ sudo iptables -m set -h # --match-setと関係する部分のみ抜粋 iptables v1.4.7 set match options: [!] --match-set name flags 'name' is the set name from to match, 'flags' are the comma separated list of 'src' and 'dst' specifications.
今回、iptables -L
コマンドで出力されたルールのsourceはanywareとなっているが、実際はBLACKLISTに指定されたネットーワークからのパケットをDROPすることができる。
これで、iptables上に設定しているルールは1つだが、実際は複数のNWに対してルールを設定することができた。(ルール数を削減できた)
注意点.セットはサーバ再起動時に削除される
ipsetのセットはiptablesのルールと同じでサーバ再起動時に削除される(iptablesの場合はサービス再起動でも削除される)。
再起動後にセットを引き継ぐためにはipset save
コマンドとipset restore
コマンドを利用する。
$ sudo ipset list Name: BLACKLIST Type: hash:net Header: family inet hashsize 1024 maxelem 65536 Size in memory: 16816 References: 0 Members: 192.0.2.192/26 192.0.2.128/26 $ #restore用のコマンドを保存しておく $ sudo ipset save | tee restorecommand create BLACKLIST hash:net family inet hashsize 1024 maxelem 65536 add BLACKLIST 192.0.2.192/26 add BLACKLIST 192.0.2.128/26 $ #ここでサーバが再起動されたと仮定。今回の例ではセットを削除 $ sudo ipset destroy $ #destroyした後だから全てのセットが存在しない $ sudo ipset list $ #リストアする $ sudo ipset restore < restorecommand $ #リストアによってBLACKLISTが復活 $ sudo ipset list Name: BLACKLIST Type: hash:net Header: family inet hashsize 1024 maxelem 65536 Size in memory: 16816 References: 0 Members: 192.0.2.192/26 192.0.2.128/26
基本的な考え方はiptables-save
とiptables-restore
と同じだ。ipset save
コマンドでリストア用のコマンドを出力し、ipset restore
コマンドで取り込めば良い。
後日談
この手順を知人が試した結果、知人のvps環境ではipsetが使えないことが分かった。
どうやら必要なカーネルモジュールが足りていないらしい。vpsがOSレベル仮想化を利用しているため、ホスト側にモジュールが無い⇒どうしようもないという展開に。うーん、なんとかならないものか・・。
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